三沢の味を満喫したいなら迷わず「だい天」
青森県三沢市にある居酒屋「彩喰楽酒だい天」。スカイプラザや市役所からも歩いて行ける、中心街の一角に位置する。
中に入ると目の前にカウンター、奥には座敷席が見える。カウンター横には焼酎や日本酒のボトルが並ぶ、大人の空間が広がる。
カウンターの上にはおしゃれな筆文字で県内・県外と分けられた日本酒メニュー、そして様々な地元食材を使ったメニューが掲げられている。
「にんにく豚しそ巻き」「長いもアヒージョ」「イカ腑まき」
食べ物のメニューを眺めていると目に入るのがごぼう、ナガイモ、ニンニク、イカ、豚肉…どれも三沢市の特産品だ。
「普通はにんにくは隠し味とか脇役として使うんだけど、うちは一品料理の主役として使っています。」
メニューについて説明してくれたのはだい天のマスター松橋秀典さんだ。だい天のメニューはどれもオリジナル。
何を食べようか迷ったらだい天に行けば三沢の美味しいもの全てを味わえる。しかも三沢の特産品が主役となった料理を満喫できる。
三沢パイカ料理の第一人者
松橋さんは彩喰楽酒だい天のマスターであると同時に、六景楽市の認定を受けている商品の販売を行う「株式会社だい天」の代表でもある。
株式会社だい天といえば「パイカ」。三沢ならではの特産品「パイカ」を使った商品を開発した第一号店だ。
元々は食べずに廃棄されることがほとんどだったパイカだが、三沢畜産公社からパイカを使って市を盛り上げようと市内の各飲食店にメニュー開発の依頼があった。
豚バラの横にあってあばらを支える役割があるパイカは非常に脂が多く、そのままでは固くて扱いづらい部位だったが、松橋さんはいち早くパイカを使用したメニューを開発した。
「豚のあばらを支える軟骨だからそのままだと固すぎるし、煮すぎるととけてしまう。ちょうどいい煮加減にしなきゃいけないんです。」
試行錯誤の末に完成した「パイカ赤ワイン煮」と「パイカトマト煮」はちょうどいい煮加減でぷるぷる、とろとろのパイカを味わうことができる。温めるだけでご家庭でちょっとした贅沢を味わうことができるメニューだ。
「ありがたいことに、うちはよくメディアに取り上げてもらえるんですよ。最近は毎月のように取材がきますよ。」
テレビ、新聞、雑誌など、その媒体は多岐にわたる。大手航空会社の機内誌にも紹介されており、なんと英語版の機内誌にも大きく記事が掲載されている。
「こういうのにも出てるんですよ。このパイカ料理ってうちですよ。」
そう言って松橋さんが取り出したのは一冊の漫画本だった。
青森県の新聞社に入社した都会育ちの新人記者が青森県のグルメと温かい人柄に触れて青森県の魅力に取りつかれていくストーリーだが、たしかに描かれている扉やカウンターなどはだい天のものにそっくりだ。
あらゆるメディアで紹介されるほど、三沢のパイカといえばだい天というイメージが定着している。
貴重!?調理前のパイカ
実はこのインタビューの中で、パイカの実物を見せて頂くことができた。
「あなたたちは運がいいね。普段は置いてないんだよ。」
そう言って松橋さんがカウンターの奥の冷蔵庫から透明な袋に詰められたパイカを持ってきてくれた。
大皿からはみ出るパイカは一枚約500g。一頭の豚から左右2枚しか取れない。見方が変わればずっと廃棄されてきたのがもったいないほどの希少部位となる。
豚バラの横の部分ということもあり、確かにすごい脂だ。パイカを並べてくれた松橋さんの手袋が脂で光る。
松橋さんによると、下処理をしていない生のパイカがお店にあるのは珍しいそうだ。実物を見ることができた我々はかなり幸運だそうだ。
「せっかくだから着替えようか?」
店の奥で着替えた松橋さんの胸には「Oh!パイカ!」の文字。
11月の寒い中、撮影用にパイカポロシャツに着替えてくれた。
さすが月に一度の取材を受ける松橋さん。取材する側が欲しいシャッターチャンスをお願いする前に作ってくれる。
数々のメディアが松橋さんにインタビューを依頼する背景には、パイカ料理開発一号店という肩書だけではなく、松橋さんの優しい人柄もあるのかもしれない。
知名度の低さ
「10年くらいやってやっと三沢といえばパイカというイメージがついてきましたよ。」
ゼロからのスタートだったパイカ料理の開発と販売は、松橋さんたち三沢市の皆さんの努力もあり最近になってようやく三沢市の特産というイメージがついてきた。
しかし、全国的にみるとその知名度はまだまだ高いとは言えない。
「お客さんって珍しいものを買うと思うでしょ?でも実際は有名なものを買うんですよ。珍しいものには見向きもしないお客さんもいますよ。」
遠方の展示会などに出店するとその傾向は強いそうだ。
やっと知られてきた三沢のパイカ。さらなる知名度アップへの道のりは険しいかもしれないが、松橋さんをはじめとした三沢市の人たちは奔走し続けている。
あなたはどこに向かっているの?みんな楽しめたらいいじゃない
今回のインタビューに際して、どうしても松橋さんに聞いてみたいことがあり、インタビューの最後に伺った、
それは松橋さんのもう一つの顔について。松橋さんはなんとマジシャンとしても活動している。
だい天のホームページに掲載されているイベントを告知するチラシには、有名なローカルタレントの隣に並ぶ松橋さんの笑顔が。ホームページにはワールドカップの解説で話題になったあの人のものまねタレントとのツーショットまで掲載されている。もはやタレントと同列の扱いを受けている。
「あなたはどこに向かっているの?とよく言われます。」
と松橋さんは笑う。
確かに居酒屋のマスターがマジックショーに出演していたら目を疑ってしまう。
「でも楽しいじゃないですか。みんな楽しんでくれたらいいじゃない。」
思い返してみるとこのインタビューの最中も常に松橋さんは我々を楽しませようと様々な気遣いをしてくれていたように感じる。
「パイカのシャツがあるから着替えようか?」
「商品の写真は撮りますか?パイカは(写真映えするように)ざるとかお皿に並べようか?」
「お店の外で写真撮りますか?」
我々がお願いしたかったことをまるで先読みしているようだ。実はこの日のインタビューは一度日程変更をお願いし、お忙しいところお時間を作って頂き実現したものだった。それにもかかわらずこれだけ温かく出迎えてくれていた。
「皆さんが三沢市に来て、美味しいものを食べて楽しんでいってくれたらいいね。」
食べ物でも、マジックショーでも、人を楽しませようというサービス精神が松橋さんの魅力だ。皆さんもだい天のカウンターで三沢の美味しいものを満喫しながら松橋さんと語り合ってみてはいかがだろうか。
ライターメモ
個人的な話ではあるが、私がこれまで食事をしたことがある三沢市の飲食店はどのお店もメニューが個性的で、美味しいメニューばかりだった。
三沢のお店は当たりばかりですと松橋さんに伝えると「ぜひうちに来て外してください。」と笑顔で返された。
これだけ評判のいいお店で食事して外れたとなると、私の舌がおかしいということになってしまう。だい天の料理を食べて自分の舌が正常かどうか試してみたいと思う。