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人気の温泉のお湯と丁寧な飼育が生んだ兜すっぽん

2023 03.15 Wed

人気の温泉のお湯と丁寧な飼育が生んだ兜すっぽん

東北町

知る人ぞ知る完全かけ流しの名湯「すもも沢温泉郷」

広大な田んぼの中の県道8号線を車で走っているとちょうど東北町と七戸町の境目あたりで見えてくる「すもも沢温泉郷」の看板。
看板が指し示す方向に見える数件の建物がすもも沢温泉だ。温泉施設としては決して大きいとは言えないが、実はこのすもも沢温泉は知る人ぞ知る、人気の温泉なのだ。

東北町には世界でも珍しいと言われる「モール泉」という、植物由来の有機物を含む泉質の温泉がいくつかある。
すもも沢温泉はそのモール泉の中でも独特の湯質だ。本来は黒っぽい色のお湯が特徴のモール泉だが、すもも沢温泉のお湯はべっこう色といえるくらい色が薄くとろみがあり、温泉の成分が肌に残る美肌の湯として知られている。柔らかい優しいお湯なので長く入ることができ、なかなか熱が冷めない。

しかもそのお湯は地下750mからくみ上げられ、加温・加水なしでそのままかけ流しているため自然のお湯をそのまま味わうことができる。
休日になると県外からもお客さんが訪れ、プロの温泉ソムリエたちからも高い評価を得ているという。

今回インタビューに伺ったのはこの人気のすもも沢温泉…に隣接する「東北すっぽんファーム」。
温泉施設に併設しているビニールハウスの中ではすっぽんが養殖されている。
実はこのすもも沢温泉のお湯が東北すっぽんファームの「兜すっぽん」を育てるのに最適な温泉だった。
兜すっぽんについて株式会社東北すっぽんファームの代表取締役社長、甲地慎一さんにお話を伺った。

思いついたら即行動 素早いフットワークで掴んだチャンス

甲地さんはもともと中学校の体育講師だったが、その後転職。東京で新聞の営業職を約10年経験したあと、地元青森県に戻りガソリンスタンドなどを経営するなど、さまざまな職業にチャレンジしていた甲地さんだったが、甲地さんのお父さんが掘り当てた温泉で何かできないかと、さらなるチャンスをうかがっていた。

ある時甲地さんはテレビで偶然、温泉を使ってトラフグを養殖するドキュメンタリー番組を観た。すぐさまその番組に出演していたトラフグ養殖の会社の社長に電話で連絡すると、すもも沢温泉の分析表を見てもらうことができたのだ。

その結果トラフグの養殖には塩分が必要で、すもも沢温泉で養殖するには、塩分を多くするためにコストがかかってしまうことがわかった。しかし、塩分の少ない淡水で育てることができるすっぽんやウナギの養殖に適しているというアドバイスをもらうことができた。

そして甲地さんはすぐにすっぽん養殖についての調査を開始し、群馬県嬬恋村の「群馬県すっぽん加工協同組合」に調査を依頼した。実際にすもも沢温泉まで足を運んでくれた組合の方からすっぽん養殖が可能とお墨付きをもらうと、そのまま初めて見るすっぽん養殖の世界に飛び込み新たなトライを開始した。

すっぽんの養殖を始める前から現在に至るまで、常に甲地さんは素早いフットワークで動いてきた。チャンスがあればすぐに行動に移す、この姿勢で数々のチャンスを掴んできた。

生き物を育てることの難しさ

「小さな失敗はたくさんありました。」

養殖を始めて一年目に青森県の地域資源を活かしたビジネスを起業した人を対象にしたビジネスプランコンテストの最優秀賞を受賞し、県の期待を背負った甲地さんだったが、すべてが順調に進んだわけではなかった。

甲地さんが育てる兜すっぽんは出荷サイズの1kg前後まで1年~2年で育つ。養殖1年目から、産卵・ふ化から出荷までの一連のサイクルを経験できたが、当然わからないことも多く苦労は尽きなかったという。

すっぽんは水温が15℃以下になると冬眠してしまうため、従来の露地養殖だと出荷まで3~4年ほどかかるが、甲地さんは温泉のお湯を使用することで年間を通して餌を与えて育てることで出荷サイズに育つまで1~2年に短縮している。
それゆえに大切なのは水温を一定に保つこと。青森県という寒冷地では気温がマイナスになることも多く、温泉を使用しているとはいえ、冬はハウス内の気温が低すぎる日もあり、すっぽんが体調を崩すこともあった。最悪の場合、死んでしまうすっぽんも出てくる。

「生き物を飼うということは難しい。気を遣わないといけないことが多いんです。」

養殖開始時にはある程度教わった設備の構造を自分で設計してきた甲地さんは、高い品質を評価されるようになった今でもすっぽんの生育環境をアップデートすることは忘れない。
よりきめの細かい砂を使用したり、養殖槽に使用する木材の材料を変更してみたり。
すっぽんにストレスを与えないための工夫を日々模索している。

ミシュラン掲載店舗も認める唯一無二のすっぽん

甲地さんが独自に改良した餌を食べて育つ兜すっぽんは臭みがなく、脂身が乗った上質な肉質が特徴だ。
さらにコラーゲンもたっぷりで、ビタミンやミネラルなどの栄養成分も従来のすっぽんより豊富という分析結果が出ている。甲地さんは、推測ですが、と前置きしながら兜すっぽんの品質が良い理由についてこのように話してくれた。

「温泉のお湯で、いきいき元気に育っているからだと思います。研究結果などの根拠はないですが、結果に現れています。」

実際に兜すっぽんに含まれるミネラルは通常のすっぽんの2倍以上の数字が出ており、バランスよくミネラルが含まれるすもも沢温泉のお湯の影響である可能性が高い。

モール泉で育てるからこその恩恵もある。通常の火山性の温泉の場合、ナトリウムや塩分が強く刺激物が多くすっぽんにとってストレスになるということもあるそうだ。モール泉の柔らかいお湯で、自然の温泉の熱で育てられたすっぽんはストレスが少なくのびのび育つ。

甲地さんの努力と、すもも沢温泉のお湯の成分でのびのびと育てられた兜すっぽんはプロの料理人から高い評価を得るすっぽんとなった。

その価値は一般的に豊洲市場に卸されるすっぽんの約2倍の相場がつくほど。その出荷先はミシュランで星を獲得するほどの有名飲食店がほとんどだ。最初のころは高いな、と言われることも多かった兜すっぽんも2年目以降は甲地さんの営業の甲斐があり、腕利きの料理人に「すごいすっぽんだね」と言われるようになった。

こうして引く手あまたとなった兜すっぽんは、現在は出荷する量が足りなくなるという。

温泉の湯量や、設備の関係で年間に出荷できる量は約5000匹が限度。しかし、飲食店向けはもちろん、鍋用パックや、ふるさと納税の返礼品としての引き合いもある。
ここ数年は鍋用パックが足りなくなり、生の出荷にまわすという限定した出荷状況が続いている貴重なすっぽんなのだ。

実はライター加藤はすっぽんを食べたことがない。まずどこで食べられるのかがわからず、お取り寄せしようにも値段が…。思い付きで注文できるような価格ではなかった。
すっぽんの味もわからずインタービューするのが申し訳なく、甲地さんにすっぽんを食べたことがないと素直に伝えると

「99%くらい食べたことないんじゃないですかね?東京に行ってお金持ちにならないと」

と甲地さんは笑った。
甲地さんによると、兜すっぽんを東京のお店で食べると一人前で3~5万円というお値段とのこと。通常の2倍以上の価格がつく兜すっぽんとミシュランの星を獲得した店舗のコラボレーションともなるとこれほどの価格になるらしい。
兜すっぽんを食べるためにはもっと仕事を頑張らなければ…。私の兜すっぽんまでの道のりはまだまだ遠いようだ。

なお、六景楽市の認定商品「兜すっぽん鍋パック」は比較的お求めやすい価格で兜すっぽんを味わうことができるので、ぜひこのページ下部の「関連商品」からチェックしてほしい。

仕事を忘れ…大人の社会科見学

インタビューがひと段落ついたところで、甲地さんは特別に実際に育てているすっぽんを見せてくれた。まずは出荷間近の1kg前後まで大きくなったすっぽん。出荷前に、1週間ほど餌止めをし、糞尿を一度吐き出し、低い水温で仮死状態で保管する。
水槽から出てきた水槽は甲地さんのてのひらよりも一回り大きく育ったすっぽんだった。確かに動きが鈍いような気がする。

すっぽんは1kg以上にも育つそうだが、あまり大きくなると取り扱いが大変なのでこのサイズが好まれるそうだ。

続いてはビニールハウスの中に案内して頂いた。
餌をもらってすくすくと育っている最中の小さなすっぽんを見せていただいた。
すっぽんは非常に警戒心が強い生き物で、人間の気配を感じると砂の中に潜ってしまうそうだが、子どものすっぽんはまだ警戒心が弱いため、隠れてもすぐに出てきてしまう。

「まだ賢くないんですよ」

と優しく話す甲地さんは網を水槽に入れて数匹のすっぽんをすくうと、小さなすっぽんをみせてくれた。

まだふ化したばかりというすっぽんは指先でつまめるくらい小さかった。パタパタと手足を動かす様子がかわいらしい。

すっぽんを育てているビニールハウスの見学は非常に楽しかった。すっぽんを育てている現場を直接見学できる機会なんてそうそうないだろう。しかも甲地さんのお話は面白い。
インタビュー中は非常に丁寧にお話いただき、この記事もお答えいただいた内容をしっかりと書かせて頂いている。
しかし所々に挟まれる雑談が非常に面白い。インタビュー自体もすもも沢温泉の待合室で行われており、非常にリラックスした空気でかなり笑わせていただく場面もあったが、生産者レポートから逸脱してしまうのでここでは割愛させていただく。仕事を忘れるくらい楽しいインタビューと養殖場見学だった。機会があれば甲地さんのお話を直接聴いてみて欲しい。

養殖場の見学を終えて感じたのは、やはりすっぽんを育てるということの手間や大変さはかなりものだろうということだった。
当たり前のことのように説明してくれた甲地さんだったが、すっぽんの成長具合によって水槽を変えたり、水温が変わらないように気を配ったり、かなり手間がかかる仕事だということは容易に想像できる。
立派な兜すっぽんが育っていく過程の裏にある、甲地さんの丁寧な飼育を垣間見ることができた。

最後に今後の展望について伺った。

「生産量を増やすことは今のところ考えていません。温泉の湯量や設備投資の問題もあるので簡単にはできませんね。今は加工品を作って行きたいです。」

甲地さんが思い描く加工品として有力なのはサプリメントだ。
すっぽんのコラーゲンは注目されており、現在もプロテオグリカンと合わせた美容サプリメントを販売している。さらにすっぽんは滋養強壮にも効果があり、身体に良いサプリメントの扱いもある。美味しいだけではなく、身体に良い効果をもたらしてくれるすっぽんの魅力を引き出すサプリメントを強化していきたいと甲地さんは考えている。

「もし兜すっぽんとコラボしたいという企業様がいれば、コラボも面白いかもしれませんね。」

以前には南部せんべいとコラボした実績もあるそうだ。抜群のフットワークを持つ甲地さんだからこそまた新たなチャレンジを模索しているのかもしれない。
甲地さんの今後のチャレンジから目が離せない。

ライターメモ

帰り際に甲地さんから「温泉に入っていったら?」とお声がけ頂いた。実はライター加藤はまわりからすもも沢温泉の評判は聞いており、いつか入ってみたいと思っていたところだった。

これはチャンスとばかりに業務中ということを忘れてお言葉に甘えてみた。実際に入ってみると評判以上の気持ちいい温泉だった。人によっては少しぬるめと感じるかもしれない湯かげんだが、その分長風呂も気持ちよく、風呂上りもしばらく熱は冷めなかった。普段は全く肌のケアなどしない私の肌もつるつるになった。

こんなに気持ちいい温泉に毎日入っているすっぽんがうらやましいと思うのと同時に、すっぽんがすくすく育つことに納得して帰路についた。

家族風呂も併設されているが、なんと1時間1,000円とのこと。一人ひとり銭湯に入るよりお得なお値段で家族みんなで温泉を楽しめる。土日は県外からのお客さんも多いので、ゆっくり入るなら平日の日中がオススメだ。

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加藤友樹

株式会社ジーアイテック
https://www.gitec.co.jp/
鯵ヶ沢町出身、八戸在住のライター。津軽も南部も知り尽くす、青森県愛好家。
青森県出身にも関わらず、青森県を堪能したいと常に熱い情熱を注ぐ。

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