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地元の美味しいもので地域とつながるかけはし

2024 06.10 Mon

地元の美味しいもので地域とつながるかけはし

六ヶ所村

小さな畑からの贈り物 ブルーベリー

今回、生産者レポートの取材で訪れたのは六ヶ所村。六ヶ所村の特産品といえばこれまでの生産者レポートでも取り上げた海の幸や長いもなど、豊かな自然の恵みを受けた美味しいものが盛りだくさんだ。そんな六ヶ所村の美味しいものの中でも、ふるさと納税の返礼品で一番人気となっているものを皆さんはご存知だろうか。

それはなんとブルーベリー。青森県のフルーツといえばりんごのイメージが強いのはもちろんだが、実は青森県はブルーベリーの作付面積で全国TOP10に入る産地だ。

今回のインタビューで伺うことになった工房プエンテは、ブルーベリーを栽培し、その自家栽培のブルーベリーや青森県産のいちごなどを使った加工品を製造している。ただ、工房プエンテは一般的な食品加工の工房ではない。知的障がいがある方が利用する「就労継続支援B型事業所かけはし」の中にあり、利用者たちが原料の栽培や収穫、製品の加工まで行っている。
工房プエンテは福祉施設でありながら製品の品質や味に一切の妥協はない。その品質が一般の食品工場の製品と肩をならべても美味しさで負けない背景には、利用者の高い技術と頑張りがある。

本レポートをお読みいただいた皆さんには利用者や職員の活動や思いを知っていただきたい。

就労継続支援B型事業所かけはし

工房プエンテがあるのは六ヶ所村出戸地区。国道338号線を北上すると、役場などがある尾鮫地区を過ぎて民家も少なくなった頃に看板が見えてくる。四方を緑に囲まれた自然豊かな場所にある就労継続支援B型事業所かけはし。その敷地内の小さな建物の一つが工房プエンテだ。今回のインタビューには主任職業指導員の能登敬二(のとけいじ)さんが答えてくれた。

「かけはしは元々、知的障がいがある方のための更生施設でした。そのなかで班に分かれて行っていた活動のうちの一つがプエンテの前身にあたります。当時は現在のようなジャムやお菓子の製造ではく、しいたけの菌を原木に植えたり、花を育てたりといった作業をしていました。」

その当時はあくまで福祉施設内の活動という形だったが、約20年前から制度が変わり、かけはしは就労継続支援B型事業所となった。

「障がいを持った人も暮らしやすく、元気な人は働きましょうということで今では工房プエンテと、花を育てたり、村から委託された清掃作業を担う作業グループの二つで活動しています。」

就労継続支援B型とは簡単に説明すると、障がいや病気などの理由で雇用契約を結んで働くことが難しい人が、就労の機会を得たり、就労に必要な能力の向上のための就労訓練を受けたりすることができる障がい福祉サービスだ。利用者と雇用契約を結ばないので賃金ではなく、生産活動への工賃という形で利用者に支給する。かけはしでは、作業や製品の販売で得た収入はすべて利用者の工賃と、製品の原料を購入するための資金となる。

かけはしをはじめとする就労継続支援B型施設の最大の目標は利用者の一般就労だ。実際にかけはしからも一般企業や、役場などに就職した利用者もいたが、大半はかけはしに戻ることとなった。

「色々な事情はあると思うのですが、仕事はできていても人間関係がうまくいかないとか、立ち振る舞いが難しかったりして戻ってきてしまうんです。どこの施設もそうだと思うのですが、やはり外に出て理解を得るのが難しいのが現状ですね。」

施設の外に出て働いていけるような協調性だったり、人とのやりとりを培って欲しいという思いもあるが、なかなか難しいと能登さんは話す。

「工房プエンテを立ち上げた当初から一般就労が目標ではありましたが、利用者の方たちの現状もわかっていました。外に出てお仕事するというのが考えづらい方も多かったので、生涯ここで仕事を続けられるような環境も必要でした。」

かけはしはその名の通り、障がいを持つ方が一般就労という目標に向かうために渡る地域とのかけはしの役割を担っているが、その目標を叶えるためのハードルが高いのが現状だ。

素材の魅力を活かした製品づくり

工房プエンテの製品の評価は高い。しかも地元青森県産のブルーベリーやいちごなどを使用したジャムやフルーツソース、焼菓子など、その種類は豊富だ。このような食品の加工を行うようになったきっかけは、地元の生産組合からブルーベリーの木をわけてもらい、敷地内の畑に植樹したことだった。それ以来、工房プエンテではブルーベリーを自家栽培し続けている。

「以前はいちごも自家栽培していたのですが、十年近く前の大雪でハウスが全壊して、いちごの自家栽培ができなくなりました。それ以降は農家さんから仕入れています。」

少し残念そうに話す能登さんだったが、自家栽培ができなくなった今もいちごにもこだわっている。下北地区で夏や秋に収穫される下北夏秋いちごを使用しており、自家栽培ではなくとも品質の高い地元のものを厳選して使用している。

ブルーベリーも自家栽培のものを中心に、青森県内の他産地から厳選した素材を使用している。

「六ヶ所村産のブルーベリーは、同じ青森県産のブルーベリーと比べて酸味があるのが特徴なんです。酸味があるからこそ、お砂糖を加えても甘酸っぱくてブルーベリー感が出るんです。だからジャムなんかに最適だと私は思っています。」

一口に青森県産のブルーベリーと言っても産地が違えば品種も違い、もちろん味も違う。

「同じ青森県産でも、十和田市や津軽の方のブルーベリーは糖度が高くて甘みがあるのでジャムよりもジュースにすると美味しいんです。同じブルーベリーでも味も違うので、色々な食べ方を楽しめますよ。」

本記事の冒頭でも述べた通り、六ヶ所村のブルーベリーはふるさと納税の返礼品として人気が高いため、六ヶ所村産のブルーベリーだけではどうしても加工品をまかないきれない。六ヶ所村産のブルーベリーが足りないことを逆手にとって、青森県内の産地それぞれのブルーベリーの個性を生かして美味しい加工品を作り出している。そしてできあがったジャムやフルーツソースを使用した二次加工品を製造しているのもプエンテの特徴だ。

「お菓子などを作る時、他の施設や工場だとジャムとかを購入して試作品を作ると言っても限界があると思うんですよ。でもうちは自分たちで栽培して製造しているので、いくら使っても痛くないんです。」

少し冗談めかして話す能登さんだったが、素材を知る人たちがジャムやソースを作り、その自分たちで作った製品を知る人がさらに加工してお菓子を作る。だから美味しいものができあがる。

福祉施設だからと妥協せず、美味しくて良いものを

能登さんたちが製品を作り出すうえでのこだわりは素材の産地だけではない。そこにはゆずれない強い思いがある。

「やっぱり売れてなんぼの世界じゃないですか。売れる商品を開発するっていうのが立ち上げ当初からの思いで、美味しいものを作っていこうよって思っています。」

福祉施設だから、といった思いは一切なく、一般の企業と同じように売れる良い商品を作りたいと能登さんは話す。工房内にはもちろん職員が常駐しているが、実際に見学させていただくと基本的な工程はすべて利用者が担っているのがわかる。

「もうみんな流れがわかっているので、今日はこれを作りますよって声をかければレシピを出してきて、材料の計量などの準備から、機械を使った作業まで、一通りの流れはもう利用者の皆さんだけで十分にいけますね。」

インタビューに伺った当日はいちごやハマナスの花を加工していたが、利用者たちが手際よく次々と加工していく。

「私たちもそれなりに利益は出ていて、利用者への工賃も県内の同様の施設の平均以上の額をお渡しできています。売り上げとしては現在の利用者と職員の人数からすると、ほぼ上限まで出せているかなと思います。」

そう能登さんが話すように工房プエンテの製品は人気が高く、売り上げも上々だ。いい素材を使うだけではなく、利用者たちがしっかりと技術や知識を身につけて加工することで品質の高い製品を作り出すことができている。

地元のものを使って美味しいものを作るために

今ではたくさんの魅力的で美味しい製品が並ぶ工房プエンテだが、美味しいものにこだわるようになったのには理由がある。

「立ち上げ当初の施設長は食に関して熱心な人でした。地元のものを使って美味しいものを作ろうというのが当時の施設長の思いだったので、今でもその思いで頑張っています。」

工房プエンテの母体である社会福祉法人松緑福祉会のホームページによると、かけはしの名前の由来は「障がいのある方々が、地域社会の人達と常に仲良く手を取り合って、生活や就労が出来るように『橋渡し』をしていく施設を目指してほしいという願いから」と明記されている。プエンテという名前もスペイン語でかけはしの意味を持つ。

当時の施設長は、地元の素材を使った美味しいものをかけはしとして、障がいがある方たちと地域社会が手を取り合う姿を想像していたのかもしれない。その思いを受けた能登さんたち職員はさまざまな製品の開発にチャレンジしてきた。

「例えば六ヶ所村で有名な長いもを粉末にして作ったお菓子や、シフォンケーキなど、色々試行錯誤を繰り返していました。なかでもお菓子作りに力を入れていましたが、なかなか納得のいくものが作れなかったという点では苦労しました。」

実は元々調理師をされていたという能登さん。しかしお菓子作りの経験はなく、レシピを作るのにかなりの労力を要した。

「お菓子作りに関しては私も職員も素人だったもので、どうしても苦労しました。本やホームページを見てアレンジもしましたし、六戸町にある指導センターに原料を持ち込んで教えてもらったり、逆にうちに来ていただくこともありました。」

今ではブルーベリーやいちごを使った加工品やお菓子が工房プエンテの商品ラインナップにずらりと並んでいるが、ここまでの商品を開発するのにはそれ相応の苦労があったことがうかがえる。能登さんは、主役は利用者の皆さんですから、と話すが、工房プエンテの製品が売れている背景には職員の皆さんの努力があったことも忘れてはいけない。

私たちができること、やっていることを知って欲しい

インタビューの最後に、今後の目標について伺った。

「うちの目標としては、現在の水準で工賃を渡すことができる状況を維持していければと思っています。」

能登さんが話す目標は控えめなものに感じるかもしれないが、そこにはさまざまな事情がある。

「かけはしは現在の利用者の人数、そして職員の人数で定員がいっぱいかなと思っています。売上が上がって悪いことはないのでしょうけど、これ以上の売上を求めると利用者にも職員にも負担をかけることになってしまいます。」

これ以上の売上を上げるためには作業者の人数を増やさなければいけない。職員を増員する必要もあり、工房の広さや設備にも限界が出てくる。

「長年続けていると利用者も職員も年齢層が上がってくるので、本当は若い人をもっと迎え入れることができたらいいんですけど、そういうわけにもいきません。周辺の養護学校から見学や体験で来てくれることもあるのですが、いざここで働いてみたいと要望があっても全員を受け入れることは難しいんです。」

かけはしで働きたいという声は嬉しいものではあるが、そこには福祉施設ならではの悩みもある。

インタビュー後、能登さんは施設の敷地内にある農地を見学させてくれた。ブルーベリーやハマナスの木が植えられている農地では利用者の皆さんがさまざまな作業をしていた。

目の前の仕事に向かう姿は健常者となんら変わりのない、もしかするとそれ以上に真剣に向き合う姿だった。障がいの有無は関係なく、ただ仕事に一生懸命取り組む姿勢がプエンテの製品の品質を生んでいるのだと思った。

「私たちは福祉施設だとかそういったことなんて関係なく、良いものをお届けしたいと常に心がけていますが、今でもなかなか理解を得られないこともあります。このインタビューを通して、こんなことをしているんだよ、こんなことまでできているんだよっていうことを、少しでも多くの人に知って欲しいです。」

これまで穏やかで優しい口調で話していた能登さんは、口調は穏やかなままだが、言葉に力を込めてそう話してくれた。

工房プエンテの製品の品質の高さを裏付けるエピソードが一つある。工房プエンテのブルーベリーといちごのジャムは六ヶ所村の給食センターで使用されている。給食は子どもたちの口に入るものであるがゆえに、使用する食材は安全でなければいけない。

「やっぱりブルーベリーやいちごって体にいいものだと思って作っていますし、うちのジャムは美味しいなと思っています。だから小さな子からお年寄りまでたくさんの人に味わってほしいと思っていますので、給食に使われているのは嬉しいですね。子どもたちにもいつか機会があれば地元のこういう所で作っているジャムなんだよっていうのを知ってほしいですね。」

もちろん地域に貢献しているのは工房プエンテだけではない。六ヶ所村内の道や施設に植えられている花の大部分はかけはしの作業チームが育てたもので、作業チームは公共施設の掃除業務も担っている。発信する場所が少ないからあまり知られていないだけで、かけはしの利用者の力は間違いなく地域に貢献している。

「うちは利用者さんファーストなので。」

インタビューの中で能登さんが何度か口にした言葉だが、今ならその意味が理解できる。

インタビューに訪れた時点では花が咲いていたブルーベリーは、このレポートが公開される予定の6月には収穫が始まる。工房プエンテの皆さんは、きっと今年も美味しいジャムやお菓子を届けてくれるだろう。

ライターメモ

ブルーベリーやいちごの他に気になったのが「はまなす花びらジャム」。ライター加藤の出身地・鯵ヶ沢町の町の花ははまなすであるため、思い出深いはまなすの花を使用したこの商品に目を奪われた。どこにでもある木というイメージだったはまなすの花びらがこんなに綺麗な色のジャムになるなんて…と驚いた。六景楽市には登録しそびれてて…と能登さんは話すが、裏を返せば認定商品となる日も近いのかもしれない。もし六景楽市の商品に認定される日が来たら、また取材に伺いたい。

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加藤友樹

株式会社ジーアイテック
https://www.gitec.co.jp/
鯵ヶ沢町出身、八戸在住のライター。津軽も南部も知り尽くす、青森県愛好家。
青森県出身にも関わらず、青森県を堪能したいと常に熱い情熱を注ぐ。

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