お米を楽しむ会社
みなさんは『KOMEKUUTO(コメクート)』をご存知だろうか。三沢市と八戸市に店舗を構え、ネット販売も展開している、お米にまつわる商品を扱う専門店だ。店内に入るとまず目に入るのはお米。KOMEKUUTOのオリジナルデザインの米袋に包装された、日本全国のさまざまな銘柄のお米が並べられている。さらにその奥には社名の由来となっている代表的な商品であるペットボトルライスが並ぶ。ペットボトルライスは2016年にグッドデザイン賞を受賞しており、色とりどりのパッケージからいくつかの銘柄を選んで贈るギフトとしても人気が高い。

店内では、お米の他にもさまざまな商品が販売されている。ふりかけやスイーツ、スープ、冷凍食品など。これらの商品はお米を使用したものや、お米を美味しく食べるために作られたものがほとんどだ。さらに驚かされるのは商品のレパートリーの広さ。ご飯を食べるための食器や調理器具、お米をイメージしたアクセサリー、米袋と同じデザインのバッグなど、食べ物以外の商品も多い。
店内に一歩足を踏み入れるとお米屋さんというよりも、おしゃれな雑貨屋さんに来たような感覚になる。どこか温かみのある店内の、おしゃれで遊び心のある商品ディスプレイを見ていると、目的が決まっていてもつい時間を忘れて商品を眺めるのに夢中になってしまう。

八戸店には、さらにカフェやダンススタジオが併設されており、従来のお米屋さんとは全く違ったイメージの新しい試みに取り組んでいるのもKOMEKUUTOの大きな特徴だ。
今回のレポートではそんなKOMEKUUTOの運営会社である株式会社PEBORAに伺った。インタビューにお応えいただいたのはキッチン担当の不破愛美(ふわまなみ)さん。お米業界に常に新しい風を吹き込んでいるPEBORAの中でも、実際に現場で製品を生み出している方に貴重なお話を伺うことができた。
手間暇かけて作る『濃厚平蟹のビスク』
今回のインタビューはPEBORA本社に併設されているKOMEKUUTO三沢店で行われた。普段は敷地内にある工場で製品を製造している不破さんだが、今回のインタビューのために業務中にお時間を作っていただいた。

まず不破さんが話してくれたのは、六景楽市認定商品の『濃厚平蟹のビスク』についてだった。今回のインタビューは濃厚平蟹のビスクの製造日に合わせてスケジュールを組んでいただいており、まさにビスクが完成する瞬間に立ち合わせていただいた。
商品ページはこちら
インタビューに先立って工場を見学させていただくことになり、厳重な異物混入対策を実施して工場に入ることができた。清潔に保たれたビスクを製造している工場は、工場と聞いて想像していたものではなく、厨房という表現の方がしっくりくるような小さな空間だった。その中では3名のスタッフが製造作業をしているところだった。

「ビスクに使われている平蟹は小さいですけど、ミソが濃厚で、すごくダシが出る蟹なんです。オスとメスでも味わいが違うので、独自の配合にして時間をかけてぐつぐつと煮出すんです。だから本当に濃厚なダシの美味しさを感じられるビスクになってます。」
見学後のインタビューで、不破さんはこのように話してくれた。『平蟹』は三沢市特産の蟹で、正式名称はヒラツメガニ。濃厚平蟹のビスクはこの平蟹を使用して作られている。その濃厚なダシを抽出するためには多くの時間と手間がかかり、製造開始から完成までは2日間を要するという。我々が見学させていただいたのはそのうちのほんの15分ほどだったが、実際に目にしたビスクの形になるまでには、すでに一日以上の時間がかかっていたということになる。その後、さらにそのビスクをざるで濾して、冷まし、パッキングしてようやく製品の完成となる。

これだけの手間がかかるビスクの製造工程はほぼ全てが手作業だ。我々が見学させていただいた間も、火にかけられたスープをかき混ぜるのも、鍋からボウルに移す際にざるで濾すのも、粗熱を取るのも、全てスタッフの皆さんの手作業だった。
「平蟹をしっかりと煮込むのもそうですが、冷えていく過程でも味が出たりもするので、時間を置くことも大切です。殻や砂が入り込まないように濾す工程も大事なので、どうしても時間がかかる作業になってしまいますね。」
不破さんたちがその作業の一つひとつを丁寧に、手作業で行なっているから濃厚平蟹のビスクの美味しさを実現できる。
風通しの良さが生む食の豊かなアイディア
PEBORAのキッチンで製造されているのは濃厚平蟹のビスクだけではない。米粉を使用したシフォンケーキや糠入りのクッキー、ふっくらとした焼きおにぎりの周りにパリパリの羽根がついた『羽根つき焼きおにぎり』、糠を使用した『米糠とごぼう【deNUKA米糠ふりかけ】』など、お米をテーマにした独創的な商品を製造している。もちろん濃厚平蟹のビスクにもお米が使用されている。
「私たちはもともとがお米屋さんという会社なので、お米を使ってビスクにとろみをつけているんです。当社の美味しいお米を使っているので、いい味に仕上がっているんじゃないかと思いますよ。」
ビスクはフランス料理のスープの一つで、甲殻類を使ったスープに小麦粉やお米でとろみをつける。濃厚平蟹のビスクは、一般的に使用されるエビやロブスターではなく三沢市特産の平蟹を使用し、お米でとろみをつけることでオリジナルの味わいを生み出している。
実はこれらのオリジナリティあふれる商品のアイディアは、不破さんたち現場のスタッフの意見が取り入れられることも多いという。
「当社の上司のみなさんはオープンマインドな方たちなので、すごくアイディアが出しやすいんです。」
新商品のアイディアはキッチンスタッフの何気ない話から出たものも多いという。例えば、羽根つき焼おにぎりのうま塩しらす味は「塩おにぎりを焼いたらどうなるだろう?」というアイディアから始まったそうだ。出来上がった試作品に対して「シンプルすぎるからしらすを乗せたらどうだろう?」「こんなダシを使ったら美味しいんじゃないか。」など、従業員の皆さんのさまざまな意見が反映されて商品化された。
「アイディアを出しやすいし、チャレンジできる空気を作ってもらっていてすごくいい環境だと思います。風通しがいい会社なので、試食をお願いすると色々なところから感想やアドバイスをいただけるんです。だからアイディアは尽きませんね。」

もちろん会社の上層部や、キッチン以外のスタッフからのアイディアをもとに試作することもあるが、その場合でもキッチンの役割は大きい。
「味付けの細かい部分になると器具が必要になるので、一旦現場で作ったものを試食してもらって、いただいた意見を踏まえて調整してという流れになります。調味料の0.1g単位の味の違いを何人かで食べ比べたり、試行錯誤して作りました。」
みんなで意見を出し合い、納得するまで試作をするPEBORAの製品開発は、案が出てから数ヶ月はかかるという。KOMEKUUTOに並ぶ魅力的な商品が出来上がるまでにはそれほど多くの人たちのアイディアと時間が費やされている。
「日本に生まれたからこそ、やっぱりお米の良さ、美味しさというのを伝えていきたいです。お米をご飯として食べるのはもちろん美味しいんですけど、色々な可能性があるというのもお伝えしたいですね。」
不破さんがそう話すように、会社の理念や向かうべき方向性が社員一人ひとりに浸透していることがうかがえる。だからこそ全員でアイディアや意見を出し合って商品を開発できる、風通しの良い空間ができあがっているのかもしれないと感じた。
お米と一緒に地元の食材を使った製品を
これまでも複数の商品開発に携わってきた不破さんだが、もっとチャレンジしていきたいと感じていることがある。それは濃厚平蟹のビスクのように、地元三沢市の特産品を使った商品を開発すること。ご自身も三沢市出身という不破さんは、地元についてこう分析する。
「三沢にはごぼうや長いも、にんにく、平蟹、それからホッキ貝もそうですよね。こんなに地元の特産品はあるんですけど、三沢基地のイメージが強くて、食べ物の特産品のイメージが薄い町なんじゃないかという気がするんです。」
三沢市にはアメリカ軍の基地や、航空自衛隊の基地がある。それは青森県内の他のどの自治体にもない、三沢市特有の文化を生み出しており、アメリカの影響を受けたイベントや食文化などは三沢市ならではの魅力だ。しかし、その魅力の印象の強さゆえに、三沢市が誇る自慢の食材の影が薄くなっていると不破さんは感じている。
「せっかく三沢に来てもらったとしても、お土産は青森県全体のものだったり、基地に関連するものになることも多いと思うのですが、そこに平蟹のビスクが入ってきたら誇らしいですよね。」

地元の三沢市で食に携わる仕事をしている不破さん。だからこそ三沢市の美味しいものをもっと広めたいと願っている。
「平蟹は食べられる身が少ない蟹で、タラバガニやズワイガニのような華やかな蟹ではないと思うんです。でも、本当はすごくミソが濃厚で美味しいんです。美味しいダシが出る蟹なんですよ。」
インタビューのなかで不破さんは何度も濃厚平蟹のビスクの美味しさを説明してくれたが、商品としての魅力だけではなく平蟹自体の美味しさも同じくらい熱を込めて教えてくれた。不破さんが話すように、現状では三沢市の特産品としての知名度は低いかもしれない。しかし従業員の情熱とアイディアで少しずつ広まっていく日も遠くないのかもしれないと感じた。
愛しい我が子を羽ばたかせたい
不破さんは、今後の目標についてこのように話してくれた。
「新しく開発したい商品のアイディアがたくさん出ているところなんですよ。でも、あまり開発の時間が取れていない状況なんです。」
実は羽根つき焼きおにぎりが高い評価を受けて、外部企業の店舗でも販売されている。その製造作業が多くなっており、製品開発に時間をまわしづらい状況となっている。
「スケジュール調整から始めて、新しい商品も開発していきたいですね。もちろんお米や糠といった、お米にまつわるもので作るのですが、できれば地元のものも使っていきたいですね。」
楽しげに話す不破さんの言葉には、自信が込められているように感じた。またKOMEKUUTOにわくわくするような新商品が並ぶ日は遠くないかもしれない。

「他社の店舗にビスク味の焼きおにぎりが並んだり、私たちが知らないうちに『我が子』たちがあれよあれよという間に社会に進出していってるんですよね。濃厚平蟹のビスクがこれからどこまで大きくなるかはわかりませんが、どんどん世間に知られて欲しいです。」
不破さんは自分達が作り出した製品を『我が子』という言葉で表現する。インタビューを振り返ってみても、確かに不破さんはまるで我が子の自慢話をするように、その製品の魅力を余すことなく話してくれていた。もちろん、我が子同然に愛情を注ぎ、たくさんの時間と手間をかけて作り出した製品たちの美味しさには絶対の自信を持っている。
「丹精こめて作った愛しい我が子を何卒よろしくお願いします。」
不破さんのインタビューはこの言葉で締めくくられた。KOMEKUUTOの店内に入った時に感じるどこか温かい雰囲気は、従業員の皆さんが一つひとつの製品を、愛情を込めて作っているからなのかもしれないと感じた。個性的な品揃え、ディスプレイの仕方、新しいチャレンジなど、その一つひとつの細やかな部分にも愛情を込めて、こだわっているからこそPEBORA、そしてKOMEKUUTOというブランドが魅力的に映るのだろう。不破さんたちがこれからも『我が子』を育て続け、私たちの食卓をもっと楽しませてくれることに期待したい。
※PEBORAの商品はオンラインショップでもお買い求めいただけます。
オンラインショップはこちら
ライターメモ
今回の工場見学ではなんと出来立てのビスクを飲ませていただくという、非常に貴重な体験をさせていただいた。もちろんその味は最高の一言に尽きるくらいの美味しさだった。その後、そのビスクの美味しさを忘れられなくて、プライベートでKOMEKUUTOに足を運びカップ入りのビスクを購入した。今度は、購入した製品の味が出来立ての味をそのまま閉じ込めたと言ってもいいくらい美味しくてもう一度驚いた。不破さんがお話ししてくれた通り、平蟹とこのビスクの美味しさはもっと知られるべきだなと感じた。
ちなみに、今回は「濃厚平蟹のビスクを買う」という目的でKOMEKUUTOに伺ったが、やはり色々な商品を見て30分以上店内をうろついてしまった。このレポートをお読みのみなさんも、ぜひ直接足を運んでKOMEKUUTOの楽しさを体験してみてほしい。